実際、ダイヤモンドの原石は定まった形状で産出されませんが、 ここでは写真のような八面体のきれいな形状の原石で考えていきましょう。
ここに原石Aがあったとします。
するとダイヤモンドはBかCのような割振りでカットしていきます。 ダイヤモンドの価値は大きさ(重さ)に比例するどころか、 大きければ大きいほどその価値(希少性)は一気に増していきますので、 ここでは単純に、CよりBのカットをしたいと考えます。
しかし、 例えば原石Dのように 致命的なインクルージョン(赤色部分)があったとすればどうでしょう。 当然、EよりもFのように カット職人はこのインクルージョンを考慮してなるべく避けたいと考えます。 ただし、Fのカットをすればキャラットが大きいものは仕上がりません。
あるいは、 原石Gのように原石がすでに欠けていた場合はどうでしょう。 HやIのようにプロポーションの角度を変えていくしかないのか? ――否。 HやIでも、浅くなった石のプロポーションを変えるという方法もあります。
ただし、この場合でもその分重さ(大きさ)が減ります。 プロポーション、つまりカットを重視すれば 重さ(キャラット)が減っていく。 重さを重視すればプロポーションが悪くなる。 さらにはそこにインクルージョンの要因も伴い、 カット職人はこの原石からいかにして価値のある(高い)ダイヤモンドを 導き出せるかを考えます。
前述したように重さは0.01ctの違いで何十万円も変わることをお話しました。 インクルージョンも10倍、30倍のあの極小の世界であります。
このようにいくつもの要因と、且つ驚嘆するような微細な世界の中で、 ダイヤモンドのカット職人さんは常に葛藤の上に立たされております。