おもしろき こともなき世を おもしろく

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時宗が執権となってはじめての宴、北条時宗の乾杯の挨拶がすごい!

「では…… 執権どのに乾杯の言葉を賜る」

胸を撫で下ろして泰盛は時宗に目を動かした。時宗は決意の顔で杯を手にすると、

「蒙古との戦いは─ ─」

いきなり切り出した。皆は緊張した。

「これまでのものと異なり、ただ敵と争うだけの戦さとはなりますまい。己れとの戦いともなりまする」

「執権どの、今夜は」

止せ、という目で実時が口にした。

「己れはだれであるのか。己れはだれを支えとして生きているのか。己れはだれを守らねばならぬのか。己れはなんのためにこの世にあるのか。絶えずそのことと向き合わねばならぬ戦さとなります」

時宗は実時を無視して続け

「蒙古の脅威は我が父よりずっと聞かされて参ったこと。見えぬ敵に恐れを抱き、理不尽さに怒りを感じつつ、常に手前の胸にあったのはそのことにござった。これは身内が打ち揃って舟遊びをしているところを、見知らぬ野盗らに襲われるようなもの。良いも悪いもなく刀を取って戦わねばなりませぬ。しかも刀を手にしておるのは手前一人。道にあるなら手前一人が盾となって身内らを逃れさすこともでき申そうが、舟の上ではそれも無理な話。敵は見境もなく身内に弓の先を向けてくる。つまりはそういう戦さと心得なさるがよい。皆が持つすべての銭や衣を差し出せば、盗賊らはなにもせず引き揚げてくれるやも知れませぬ。が、知らぬ相手なれば確約がなきこと。娘や女房をさらって行く恐れもあり申す。なに一つ争う力のない身内らは手前の判断ばかりに命を預けるしかござらぬ。身内のためになら死んでも構わぬと思うてみたとて、手前が死ねば身内の運命はいかなることにあいなるか。手前が争うことで敵を傷付け、それが敵の怒りを誘う結果となるやも知れませぬ。こんなところに現われた敵を憎む暇もない。どの道を選び、どんな結末となったとしても…… 曖昧なままでその結果に至れば悔やむでありましょう。ひたすら命乞いした上に娘や女房を連れ去られた者は、なぜ刀を持ちながら戦わなかったかと悔やみ、戦った果てに身内ともども死を迎える者は、これが最良の道であったかと悔やむはず。打ち明ければ、手前にもまだその最良の道が見えておりませぬ」

広間の者らは落ち着かなくなった。

「武者とは─ ─」

時宗は続けた。皆は耳を傾けた。

「仕える主人のために命を捧げる者。これがもし主人が同船している舟であるなら迷いもござるまい。結果がどうなろうと己れは使命を果たして悔やみもせずに死んで行け申そう」

皆はいっせいに頷いた。

「なれど蒙古との戦さでは守るべき主人がおり申さぬ。身内ばかりの乗る舟を襲って参る。身内は主人にござらぬが…… 一人、刀を持つ己れが武者であることに変わりはござらぬ。武者の刀は天より与えられしもの。その舟の中にあって明瞭な役目を授けられておる者は武者である己れ一人のみ。それを肝に銘じて敵を待ち受けるしかござるまい」

時宗は言葉を切った。

あとは続かない。今も口にした通り、時宗にもまだ答が見付かっていない問題だった。

途中まで、やっちゃった!?と心の中でハラハラドキドキしてましたが、なるほどこれは奥が深い。当時の、武士道なんてまだ確立できてない時代での話しですからね、それを踏まえると新しい執権はなかなかの人物ではある。サムライ、というものがどこから来て、どのように生きてきたのか、これは現代に生きる人にも非常に学ぶところが多いものです。ほんに、ヘタな自己啓発本よりずっと勉強になり申す。

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