粋華志義

男子晋作

高杉晋作は平素、同藩の同志に、

「おれは父からそう教えられた、男子は決して困った、という言葉を吐くなと」

と語っていた。どんな事でも周到に考えぬいたすえに行動し、困らぬようにしておく。それでなおかつ窮地におちた場合でも、

「こまった」 とはいわない。困った、といったとたん、人間は知恵も分別も出ないようになってしまう。

「そうなれば窮地が死地になる。活路が見出されなくなる」

というのが、高杉の考えだった。

「人間、窮地におちいるのはよい。意外な方角に活路が見出せるからだ。しかし死地におちいればそれでおしまいだ。だからおれは困ったの一言は吐かない」

と、高杉は、陸奥にもそう語っていたという。