――考えこまざるをえなかった。
(あの執念ぶかさをみれば、あるいは信長こそ英雄といえる者かもしれぬ)
信長の性格を、その逸話から単に短気者とみていた光秀は、意外な思いがしはじめたのである。
美濃攻略に関するかぎり信長の性格は、まずその貪婪さ、その執拗さ、この二つが世間に濃厚に印象づけられはじめている。いずれも英雄の重要な資質といっていい。
さらに二敗三敗してもくじけぬ神経というのも、常人ではないであろう。さらに大きなことは、三敗四敗をかさねるにつれて信長の戦法が巧妙になってくることであった。
(あの男は、失敗するごとに成長している)
いや、光秀の越前からの視察では、成長するためにわざと失敗している、と思えぬほどのすさまじさがある。