おもしろき こともなき世を おもしろく

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下戸宣言

 私の名前は、下戸です。下に戸と書いて、下戸(げこ)です。下戸と呼んでください。

そう。思えばもう、あれから12年も経つのだろうか。ボクは地元の高校を卒業して、都内の専門学校に行った。1学年に700人ほどいるので、専門学校としては、なかなか人数が多かったらしい。そこで、人生初めての衝撃を受けるのであった・・・。

話はさらに遡る。ボクが人生で初めてお酒を飲んだのはいつだっただろう。父がよく飲むので、ビールの泡の部分を飲んで「にがい!まずい!」と思ったのをどこかの記憶で覚えている。勿論、そんなのは飲んだ内には入らないが、とにかくそれが初めてお酒に触れ合った瞬間だろう。

本格的にお酒を飲むようになったのは、中二くらいからだろうか。友人の家が所有する牛小屋が、山の頂にあり、周りに民家がないもんだから、もう騒ぎまくり。屋根の上とかで騒いでも、そこにはボク等だけの青春しかなかった。二十人くらいで飲んで、歌って、ゲロ吐いてた。

年頃なもんだから、毎回誰かしらが意中の人に電話をして告白する。告白したその誰かが付き合うと皆で祝い、飲んで、まるで自分のことのように喜んだ。また、告白したその誰かがフラれると皆で慰めあい、励まし、やはり飲んで語った。今でも実家にある写真には、皆が泣いている。付き合っても、フラれても、それが酒の肴になっていたのであろう。

この牛小屋飲みは好評で、回を重ねていった。とは言っても、まだ小僧なので、飲み方もロクに知らない。揃っている酒も、コンビニで買い揃える程度だ。だいちゃんスペシャルというものがあって、ウイスキー、日本酒、ビール、焼酎などをだいちゃんがバーテンダーのように混ぜる。いや、バーテンダーというのは話を盛り過ぎた。“山賊”といった方が適当だろう。それがひどくまずい。味はまずいが、ノリという当時でしか理解できない動機で、飲む。

みながみな、自分の限界を知らないもんだから、自分がどれだけお酒を飲めるのかが解らないもんだから、飲む。もしくは、「吐いた分だけ酒は強くなる」←こんな言葉を信仰して、飲んだ。うまさはよく解らないが、そんなノリだったり、迷信があって、とにかく飲んだ。だいちゃんスペシャルを飲んだ。だいちゃん、元気にしてますか?

だもんだから、次の日の朝は、決まってそこら中がゲロだらけだった。ひどいもんだった。牛小屋は2階建てとなっているが、階段の下に靴を置くと必ずゲロを吐かれるので、みんな靴を高いとことかに隠すほどであった。牛小屋ならず、ゲロ小屋だ。

はじめの内はみんなで片付けていたが、回を重ねるとその内早朝みんなが寝静まっている頃に勝手に帰る者も出始めた。ゲロ逃げだ。でも、どんな時でも活躍する者もいた。「風神」という掃除機だ。なんとも古い掃除機で、名前だけが妙に威勢がいい。吸引力は強くなかったが、いや、もっと言うとタコの吸盤の方が吸引力がありそうなものだったが、誰もそのことは口にせず、風神で掃除してた。

いつしかその牛小屋も閉鎖されることとなった。あまりにもボク等のマナーがなっていなかったからだ。いや、真相は、あまりにもボク等のゲロがひどかったからか。かっちゃん、ごめんなさい。それにしてもあの牛小屋は、いつまでもボク等の伝説として、生き続けることだろう。

行き場を失ったボク等は、次の戦場を探し求めた。20~30人が飲んで、一晩中騒げる場所を求めて。そして、ボク等にそんなに時間はかからなかった。山全体が公園になっている公園がある。夜間は閉鎖されていて、通常 中には入れない。ここに、飢えたハイエナのように夜も更けた頃、夜な夜な集まるのであった。

とは言っても、酒の内容は大して変わらない。コンビニだ。眞露なんて、鉄板。相変わらず、そんなお酒を飲んでは騒ぎ、飲んでは吐くのであった。忘れてはならない、「吐いた分だけ酒は強くなる」はずだった。

とある宵、一人が脱ぎだした。まぁ、酔っ払うとよくある若者のノリである。全裸である。それに続いて別の者が脱ぎだした。全裸である。「ち○こブラザ~ズ♪」などと歌って踊りだす。ぷらんぷらんしながら踊りだす。その内、もう一人増え、三兄弟になった。この兄弟の得意芸は、上の口ではなく、下の口でお酒が飲めることらしい。その割には、「痛い!」とか言って奇声をあげる。おい、ブラザーズ、痛いならやめろ。とお思いでしょう。違うんです、はじめこそ自分でやっていたが、その内周りのモノにはがいじめにされ、強要されている。

とにかく。この奇声が、まずかったらしい。公園内は閉鎖されているので、真っ暗だ。月の灯りで我々は宴を楽しんでいる。遠くの方から光るものが見えた。懐中電灯・・・、警官だ。それも、一人ではない。どうやら、通報されたらしい。

30人が一斉に散らばった。ち○こブラザ~ズも散らばった。その公園は、再度言うが、山全体が公園になっている。山の頂で宴をやっていただけに出口は四方八方にあり、自然(草木)がいっぱいだ。ボクが逃げた方向には、5~6人いただろうか。誰がはじめたのか匍匐(ほふく)前進で逃げた。初めて本気になってやった、匍匐前進。それにしてもホフク前進とは、こんな字を書くのか。

5~6人が、匍匐前進をしている。何が滑稽かって、この5~6人の中に、あの「ち○こブラザ~ズ」の1人がいたことだ。無論、全裸である。全裸で、匍匐前進をしている。もう、「ち○こブラザ~ズ♪」とか言ってる場合じゃない。この緊張感の中で何ゆえ全裸で匍匐前進しているのか、そう思うと憎たらしくもあり、なんとも愛おしい。

それでもなんとかボク等の5~6人は無事山を降り、近所の友人宅に亡命した。別々になった仲間とも連絡を取り合い、どうやら全員逃げ切った模様だった。しかし、これで安心してはいられない。ブラザ~ズの衣服が全部山の頂に置きっぱなもんだから、結局、ブラザ~ズその他何人かは警察署に自首しにいくこととなった。

まぁ、前説が少々長くなりましたが(前説か!)、こんな感じで専門に入る前までには、それなりに酒にはなじんでいた私でした。中学の仲間や、高校の連中と飲んでいても、強くはなかったが、決して弱くもなかった。それなりに、飲んでいた。ましてや、女性に負けるなんて微塵も思っていなかった。偏見かも知れず、申し訳ない。でも、正直そう思っていたことは事実だ。

それが、専門に入って根本からぶち壊された。解りやすく言うと黒船が来た時の日本人のような感覚。「東京さ、すげぇんだ」って思った。その光景とは、女子が酒をざるのように飲んでいたことであった。そう、世が戦国ならその体はまるで武将が如く勇ましく、豪快、且つ、豪快。世が幕末ならば“狂”とでも言うべきか。とにかく飲み、且つ、飲む。飲んだと思ったら、また飲む。気持ちいい位に完敗した。女子に。

あれから12年、お酒は飲んでいたが、ボクはボクなりに、飲みの席ではそれなりに皆とペースを合わせて飲んでいたと思っていた。しかし、それは本当に飲んでいたと言えるのか?

 “とある1グループ”と飲んでいるとそう思わざるを得ない。気のせいか、前より飲めなくなっている節もある。一方、その、“とある1グループ”を見ると、前よりパワーアップしているようだ。

そこで、思ったのだ。

自分という人間は、下戸なんだ

 と。“とある1グループ”を見てしまうと、自分ごときが「お酒が飲める」なんてたいそうなことは言えない。そうだ、下戸で、ええじゃないか。下戸で、なにが悪い。そう認めることによって、この罪悪感から解き放たれよう。そう告白することによって、自由の翼をボクは手に入れるんだ。

ボクの名前は、下戸。その代わり、最高の下戸になってやる。下戸のてっぺん、とったる。

ボクの名前は、下戸。お酒は飲めないが、乾杯くらいはやります。

ボクの名前は、下戸。お酒を飲めるなんてめっそうもございませんが、雰囲気は好きです。

下戸になってからも、宜しくお願いします。

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