おもしろき こともなき世を おもしろく

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ワタクシが土方歳三を崇拝する理由、それは義。

歳三は、激論した。

ついに、泣いた。よせ、よすんだ、まだ奥州がある、と歳三は何度か怒号した。最後に、あんたは昇り坂のときはいい、くだり坂になると人が変わったように物事を投げてしまうとまで攻撃した。

「そうだ」

と近藤はうなずいた。

「賊名を残したくない。私は、お前とちがって大義名分を知っている」

「官といい賊というも、一時のことだ。しかし男として降伏は恥ずべきではないか。甲州百万石を押えにゆく、といっていたあのときのあんたにもどってくれ」

「時が、過ぎたよ。おれたちの頭上を通りこして行ってしまった。近藤勇も、土方歳三も、ふるい時代の孤児となった」

「ちがう」

歳三は、目をすえた。時勢などは問題ではない。勝敗も論外である。男は、自分が考えている美しさのために殉ずべきだ、と歳三はいった。

が、近藤は静かにいった。おれは大義名分に服することに美しさを感ずるのさ。歳、ながい間の同志だったが、ぎりぎりのところで意見が割れたようだ、何に美しさを感ずるか、ということで。

「だから歳」

近藤はいった。

「おめえは、おめえの道をゆけ。おれはおれの道をゆく。ここで別れよう」

「別れねぇ。連れてゆく」

歳三は、近藤の利き腕をつかんだ。松の下枝のようにたくましかった。

ふってもぎはなつかと思ったが近藤は意外にも歳三のその手を撫でた。

「世話になった」

「おいっ」

「歳、自由にさせてくれ。お前は新撰組の組織を作った。その組織の長であるおれをも作った。京にいた近藤勇は、いま思えばあれはおれじゃなさそうな気がする。もう解きはなって、自由にさせてくれ」

歳三は、近藤の顔をみた。 茫然とした。

「行くよ」

近藤は、庭へおりた。おりるとその足で酒倉へゆき、兵に解散を命じ、さらに京都以来の隊士数人をあつめて、

「みな、自由にするがいい。私も、自由にする。みな、世話になった」

近藤は、ふたたび門を出た。

歳三は追わなかった。

(おれは、やる)

以上、“燃えよ剣”より抜粋。

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