粋華志義

秀吉とくわんぴょうえ

官兵衛が秀吉を見ていると、たいていのことでは自分のほうが上だと、内心思う。

(自分が織田家にうまれていれば、むしろ秀吉を使う側になっている)

子供っぽいことではあるが、秀吉に腹を立てたときなど、ついそう思ってみずから慰めている自分に気づくことがある。人間は複雑に噛みあった条件で関係ができているわけで、それだけのことではないか、と思い、気を散ずることにしているのだが、この備中高松において自分ではどうにも太刀打ちできないほどの秀吉を見てしまうはめになった。

それまで、官兵衛は秀吉にただ二つの長所を見出していた。ひとつには、ひとの意見を、愚者のような、ときに幼児のようにぽかんと穴のあいたような表情で聴き入ることだった。

(あれだけは、あの男の生得の徳で、どうにもまねができない)