粋華志義

土佐藩復帰のカギとなる手紙/慶応二(一八六六)年十一月

 
本文は溝渕に送った手紙の下書きです。ご覧いただくために送ります。

先日聞き入れてくださった私の考えのあらましを認めましたので、ご覧ください。
私は次男に生まれ成長するまで兄に従っていました。
京都にいた頃、深く藩主の恩をありがたく受け、海軍への志があるため、幕府に請い、それより後骨身を削って、航海術を身に付け、実践してきました。
一人どうしようもなく、才能も十分でなく知識も浅い、このように、単身孤剣困り果て資材にも乏しいため、速やかに成功を収めることができなかったのですが、それなのに、今は海軍の基ができました。
これはあなたの知る所です。数年間東西を奔走し、しばしば土佐の人に会っても知らない人の振りをしてきました。
人は誰も父母の国を思わない人がいましょうか。それなのに忍んで故郷を顧みないのは、情けのために道から外れ、昔からの志がつまずいてしまうことを恐れるからです。
志が、はたして成就しなければ、また何のために藩主に顔向けできましょうか。
これが、私が長く浪人して他藩に仕えることを求めず、苦労をいとわない理由です。
あなたは私をかわいがってくれている人なので、あらましを述べます。
お察しください。

十一月
頓首
坂本龍馬